飼い猫ケインが死にかけた話【詰まってどえらいことに】その5
無事手術を終えた日、会社からいったん家に帰り、病院までケインを迎えに行った。
去勢手術をした時には、いやがってエリザベスカラーを付けられなかったと獣医から聞いたのだが、今回はおとなしく付けている。
お腹はきれいに毛が剃られ、全体の半分くらいに渡ってまっすぐに縫合されていた。お腹の脇にはられた日時が書かれたシールらしきものは、麻酔の効果を及ぼしているらしい。記入された日時がきたらはがしてくださいと言われた。首にはバンダナ状の布が巻かれていて、カテーテルを体内に挿入したあとをふさいでいるということだった。
女性の獣医から色々説明があった。
まず投薬について。粉薬は水に溶かして、針の付いていない注射器を口の脇に差し込んで飲ませること。小さな錠剤を猫に飲ませる手順も教わった。両手で下あごと上あごをそれぞれホールドし、上を向かせて喉の奥に錠剤を放り込む。そのやり方を実地で試してみるということで、獣医が連れてきたのは白くて大きメインクーンだった。
メインクーンを実際に目にしたのは初めてだった。本で読んだ、その威厳のある風格と、優しく賢いという特徴で、あこがれの猫であった。もしケイン以外に、一緒に暮らす猫を選べといわれたら(仮の話だぞ、ケイン)ぜひメイクーンと暮らしてみたいと思っていた。噂に違わず、見ず知らずの人間に触られても物怖じしない穏やかな猫だった。
処方食の缶詰は、水と合わせてすりつぶし、どろどろにして与えること。これには必殺の「ミルサー」が役立った。しかし、食事を与えるタイミングは少量をこまめに、できれば日に5回くらいに分けて与えてくださいと言われた時にはまいった。会社勤めのひとり暮らしには、とうてい無理な注文である。部屋にある自動餌やり器は固形状のキャットフードしか使えない。獣医と話しても解決策はなく、まぁ仕方ないということになった。2、3日もするとケインも食欲が戻り、皿に入れた流動食をきれいに残さず食べるようになったが、朝と晩の2回でどうにか乗り切った。
1歳弱という若い回復力で、ケインは日増しに元気になっていった。毛繕いをしようと身体を曲げながらも、エリザベスカラーの内側をザリザリと力強くなめ回している姿は、おもしろく、ちょっとかわいそうだったが、まぁ致し方あるまい。
ケイン、君はもう子猫とは呼べないな。それに心なしかお腹が垂れているではないか。
あれから、もう2年になるのだ。
ケインは相変わらず、ヒモとか布を口に入れる習性が残っているようだが、昔ほどではない模様。この顛末では、お腹を切ったケイン自身がいちばん辛かったはずだが、何でそんな目に遭ったのかという因果関係は、たぶんわかっていないだろう。その分、飼い主である私が学んで、同じ事が起きないように注意しなければと思う。
この記録は、猫と暮らしている飼い主と、人間と暮らしている猫たちの役に立つことがあればと思い、書き起こしました。
おしまい。
2018年12月16日・追記
6年以上前の投稿になりますが、この顛末記へのアクセスは毎日絶えることがありません(現時点で60,000アクセス弱)「猫 誤飲 吐く」などの検索キーワードでやってくる方が多いようです。
それだけ多くの飼い主の方が、飼い猫の嘔吐や、誤飲の疑いを心配されていることを知り、とても驚きました。
猫は人間の言葉を話せないので、自分の身に起きている症状(痛みや苦しさ)を説明することができません。飼い主がその症状を見て、考え、行動する必要があるのですね。その判断の助けに、この投稿が少しでも役に立てれば、私も嬉しいです。
6年の歳月を経て、ケインも、そして私も同じように歳をとりましたが、元気でやっています。ケインからはたくさんのものをもらいましたね。
ありがとう、そしてこれからもよろしく。
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