飼い猫ケインがMRI検査を受けた話
- 名前:ケイン
- 品種:Mix
- 性別:オス、去勢済み
- 年齢:もうすぐ14歳
これは我が家のケインが、ある病変を発症し、その診断と治療の一環としてMRI検査を受けたときの顛末です。猫のMRI検査については、経験された方(猫)はあまりいないと思います。何かの参考になれば幸いです。
MRIとは
MRI(磁気共鳴画像診断)は、人体内部の詳細な画像を生成する非侵襲的な診断技術です。以下はMRI検査の主な利点です:
- 詳細な画像:MRIは、脳や脊髄、関節、内臓、軟部組織などの詳細な画像を提供します。これにより、微細な異常や病気を検出することが可能になります。
- 非侵襲的:MRIは非侵襲的な手法で、体内部の画像を得ることができます。つまり、針や手術の必要性なく、体内部の詳細な画像を取得できます。
- 放射線を使用しない:MRIはX線を使用しないため、放射線による健康リスクを避けることができます。
- 多方向の画像:MRIは、体の様々な角度から詳細な画像を提供できます。これにより、特定の領域を詳しく見ることが可能になります。
- 早期診断:MRIは、発症初期の病気や障害を検出するのに有用です。これは、早期治療を可能にし、結果的により良い治療成果をもたらすことがあります。
ただし、MRIにはいくつかの制約もあります。例えば、MRIは高価な技術であり、機器が大きくて移動が難しいため、すべての医療施設で利用できるわけではありません。また、金属製のインプラントやペースメーカーを持つ人々には使用できない場合があります。
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受診した医療機関
MRI検査の設備をもった動物病院はあまり多くはないと思われます。ケインが受診したのは「日本動物高度医療センター・川崎本院」です。ここは二次診療を専門とした動物病院で、かかりつけの動物病院からの紹介を受けて先進医療を行います。
発症した病変
ケインの病変は左眼に発症しました。
猫の眼には「瞬膜」という膜があります。寝ているときにまぶたが半開きだと、白い瞬膜が見えてギョッとすることがありますが、猫が起きると瞬膜は引っ込みます。それが正常です。
しかしあるとき、ケインの左眼の瞬膜が完全に戻らなくなっていることに気づきました。左眼の目頭から黒目にかかるくらいまで瞬膜が出たままになっているのです。
かかりつけの動物病院を受診
実は同じタイミングで、ケインには「もう一つの病変」が起きており、最初はこちらの診断で近所の動物病院を受診しました。そこで獣医さんから、この左眼の症状は「ホルネル症候群」の可能性があると教えられました。
ホルネル症候群(Horner’s syndrome)は、交感神経の障害により引き起こされる症状群で、猫でも見られます。交感神経は、体の「ファイト・オア・フライト」反応を制御する神経系の一部で、目や顔の筋肉の動きを含む様々な機能を調節します。
ホルネル症候群が発生すると、以下の主な症状が現れます:
- 瞳孔の収縮(ミオーシス):瞳孔が普段より小さくなります。
- 下垂眼瞼(プトーシス):上眼瞼が下がります。
- 眼球の奥への後退(エノフタルモス):眼球が奥に引っ込みます。
- 第三眼瞼(ヒトでは存在しませんが、猫などの動物には存在)の突出:第三のまぶた(またはハワイ)が見えるようになります。
ホルネル症候群の原因はさまざまで、頭部や首の外傷、中耳炎、神経系の障害(例えば、腫瘍や椎間板ヘルニア)、特定の薬物の副作用などが考えられます。一部の場合、原因は特定できません(これを「特発性ホルネル症候群」と呼びます)。
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指摘されて気づいたのですが、左眼は瞬膜が出ている以外にも、瞳孔のサイズが右に比べて小さくなっています。
獣医さんとの話し合いで、とりあえず「もう一つの病変」の治療を優先して、ホルネル症候群の方は様子を見ようということになりました。
食欲不振
最初に動物病院を受診した次の日から、ケインはほとんど餌を食べなくなってしまいました。水は飲みますが、ドライやウェットの何種類かのキャットフードを与えても、においを嗅ぐだけでほとんど食べません。とても心配になって、毎日動物病院へ連れて行き、点滴と強制給餌をしてもらいました。
ヒルズのAd缶を処方してもらい、家でもシリンジに詰めて強制給餌をやってみました。しかしケインは嫌がり、小指ほどの細いシリンジ1本を与えるのが限界です。1回の給餌でAd缶の半分くらい、と指定された量を与えることはとても無理でした。
二次診療へ
ケインの食欲不振と、強制給餌の難しさを見て、医院長から二次診療の打診がありました。ホルネル症候群の原因(脳腫瘍など)が食欲不振を引き起こしている可能性があり、そのリスクが手に余ると判断されたようです。
二次診療の病院として、一つは日本動物高度医療センター、あるいは大学の附属病院を挙げられました。大学の附属病院は順番待ちで診療まで日数がかかる可能性があること、日本動物高度医療センターは比較的近い(片道15kmほど)ことから後者を選択しました。医院長からは「ただ、診療費は高額になる」という説明はありました。
かかりつけの動物病院から日本動物高度医療センターに宛てた紹介状の一部です。
…これまでの経過・治療内容(略)
※※※治療と支持療法によるQOLの改善なし
ホルネル症候群の改善なし
《ご紹介にあたって》
・今の治療を続けていてもQOLの改善は難しいかもしれない。
・ホルネル症候群の原因鑑別と治療がQOL改善のために必要かもしれない。
上記理由のために貴院をご紹介させていただきました。よろしくお願い致します。
※※※:「もう一つの病変」
QOL:Quality of Life 生活の質
日本動物高度医療センター初診
この日は10時過ぎにペットタクシーを利用して訪れました。受診者はとてもたくさんいましたが、建屋内の待合室や診療室、そして通路も含めてスペースがたっぷり取られているので、混雑している印象はまったく受けませんでした。
最初に受診したのは消化器科です。これは「もう一つの病変」に対する診療です。
担当獣医から問診と、今後の診療方針の説明がありました。そして今回かかるであろう診療費の目安が提示されます。これは最後の会計時に驚くことのないようにとの配慮だと思われます。それほど高額になります。ちなみにこの日は 95,000円ほどかかりました。
色々な検査をして3時間後に診断を聞きました。新たな病変が発見されることもなく、現状の治療を続けて問題なしということになりました(この前日からケインの食欲は戻りつつありました)
次回は日程を調整して可能になり次第、脳神経科に転科してMRI検査をすることになりました。
再訪・MRI検査
再び日本動物高度医療センターを訪れたのはおよそ一週間後でした。
MRIは検査をしている間、被験者は動かずにじっとしている必要があります。猫は絶えず動き回る可能性があるため、MRI検査では全身麻酔が必須となります。まず最初に全身麻酔を含めたMRI検査が可能かどうかの診断がありました。
同時に神経学的検査も行われ、姿勢反応・脊髄反射・脳神経の反射、反応がチェックされ、すべて問題なしという結果でした。
麻酔の同意書に記入を求められます。こんな内容です。
私は、患者動物が手術・麻酔および必要な検査を受けるにあたり、その必要性、手術の内容、術式および不測の事態等について担当医から説明を受け、その実施に同意いたします。それらの実施中、またはその後にいかなる異変が生じたとしても異議を申し立てません。
なお、担当医の算出した見積もり額に同意し、患者動物の容態によって見積もり額に変更が生じうることを理解し、その費用を支払うことに同意します。
同意書より一部を引用
(数年前に私自身が鎖骨骨折で全身麻酔の手術を受けたときにも同様の同意書に記入しました)
MRI検査が始まって麻酔から覚めるまで4時間くらいかかるとのことでした。日本動物高度医療センターは多摩川沿いに建っています。近くのコンビニで昼食のおにぎりを買って川べりで食べ、本を読んだり、川面を眺めて時間を潰します。初夏のとても気持ちの良い日でした。
病院の4階にはテーブルやソファーが設置されたラウンジがあります。残りの時間はそこで MacBookを広げて過ごしました。
診断結果
午後3時過ぎに館内放送で呼び出しがあり、1階の診察室で診断結果を聞きます。
ホルネル症候群の原因は「中耳炎」とのことでした。
中耳炎といわれて、子供の頃にプールで耳に水が入ったままにして中耳炎?になったことを思い出しました。注射器を鼓膜?に刺して膿を吸い出すのがすごく痛かったこと、そしてそこで処方された粉末のグリーンジュース(青汁?)がひどく不味かったことが思い出されます。
ケインの場合、それは急性のものではなく、慢性的に昔から罹っていたのではないか、とのことです。撮影画像を見ながら説明を受けましたが、素人目にはよくわかりませんでした。
とにもかくにも「脳腫瘍」とかではなくて本当に安心しました。
鼓膜の内側から採取した細胞組織を外部機関に送り、より詳細な検査を依頼するとのことでした。その結果が返ってくるまで二週間ほどかかるそうです。その結果を見て治療方針(投薬、手術など)を決めることになります。それまでは抗生物質を投与して様子を見ることになりました。
この日の治療費(参考データ)
診療項目 | 金額 |
---|---|
基本診察料 | 2,000 |
検査料 | 25,900 |
画像診断料 | 87,000 |
薬治料 | 7,700 |
注射料 | 5,200 |
処置料 | 7,500 |
麻酔料 | 17,700 |
小計 | 153,000 |
消費税 | 15,300 |
合計 | 168,300 |
あらかじめGoogle のクチコミで見ていた金額と同等だったので、特に驚きはしませんでした。
投薬の工夫、あるいは策略
ケインの食欲が戻り、ホルネル症候群の原因が中耳炎であることが判明して、やっと安心できたのがこの頃です。
処方された抗生物質は、小さい錠剤を半分に割ったもので、1日1回与えることになっていました。MRI検査から帰ってきた日の夕方、餌を食べた後に投与してみます。やり方はネットやYouTubeで調べました。上顎を持ち上げて舌の奥に錠剤を落としてみます。しかし、ケインはすぐに吐き出してしまいました。
ちょっと考えて、錠剤を砕いて粉にして、水に混ぜてシリンジで与えてみることにしました。口の脇からシリンジの先を差し込んでピュッと流し込みます。これはうまくいったように見えましたが、シリンジの先をよく見ると、少量の水と一緒に抗生物質の粉がたくさん残っています。その残りをもう一度ピュッと流し込むと…
これは間違いでした。
砕いた錠剤をダイレクトで舌にのせられたわけで、ケインは必死に口を動かして吐き出そうとしています。しかし粉なので吐き出すことは不可能です。しまいには口の端から白い泡がブクブクと。
すまぬ、ケイン。
ケインが嫌がることは避けたいので、副食として時々与えているウェットフードに錠剤を埋めてみました。これは最初の1回はうまくいったのですが、次回からは錠剤が露出した時点で食べるのをやめてしまいます。さらに錠剤を中に押し込むと、やっぱり錠剤が出てくるところまでは食べますが、錠剤を飲み込むことはありませんでした。
次に試したのは、粒状になったやわらかいキャットフードの中に錠剤を埋め込むという方法です。これはYouTubeの動画で知った作戦です。ケインはチキン系のフードが苦手なので、食べそうな「まぐろと焼かつお・海鮮ほたて味」というやつを買ってきました。鼻を近づけてみると、ものすごくおいしそうなにおいがします。
しかし、人間が思わず口に入れたくなるような魅惑の香りも、ケインのお気には召さなかったようです。フード自体を食べなければ、この作戦も無力です。
ならば普段食べているキャットフードを使えばいいのではないか、と思い付くのは自然な流れです。しかし、普段食べているカリカリは、錠剤を埋め込むような厚みはありません。そこで、
半分に割ったキャットフードで錠剤を挟み、ご飯粒を指で潰したものでくっつけるという作戦です。見た目は違和感ありまくりで、期待せずに普通のキャットフードに1粒だけ混ぜて与えてみたのですが、これがなんと、成功したのです。
翌日にはバージョンアップして、キャットフードをミルサーで粉にしてご飯粒に練り込んでみました。一晩おくとご飯粒が固まって、見た目も手触りもほぼ完璧です。
これならいける、と思いました。しかし、そう甘くはありませんでした。
フードを丸呑みすればいいのですが、噛んでしまうと錠剤を味わうことになります。数日後、噛んで吐き出したものが残されるようになりました。すごく不味い餌が混じっているというのを学習したのでしょう。しまいには、仕込んだ餌だけを手つかずで、きれいに残すようになってしまいました。多分においでバレてしまったのだと思います。
そんな感じで錠剤を投与できない日が続きましたが、気にはしていませんでした。なぜならホルネル症候群の症状がだいぶ良くなっていたからです。眠たそうにしているときは左眼の瞬膜が出ていますが、目を見開いたときにはきれいに戻るようになりました。
細胞検査の結果
MRI検査の二週間後に、再び日本動物高度医療センターを訪れました。細胞検査の結果をきき、今後の治療方針を決めるためです。
検査結果は以下でした。
病理検査報告書
所見:標本には変性した角化物が散在性に少量採取されている。炎症細胞などの有核細胞成分は乏しく、細菌・真菌などの感染体は認めない。
コメント:角化物が少量採取されており、これらが鼓室包内の細胞成分である場合は真珠腫性中耳炎が疑われます。検索範囲に炎症細胞は認められず、細菌や真菌など特定の感性体は認められませんでした。
動物一般細菌検査報告書
培養同定検査:培養同定(他)は、菌の発育を認めず。嫌気性培養は、菌の発育を認めず。
感受性(細菌)は培養陰性の為検査中止
上記の「真珠腫中耳炎」について
珠腫性中耳炎は、中耳の炎症性疾患の一つで、中耳腔に炎症性のポリープ(肉芽腫)が形成される病態を指します。この病態は、慢性的な炎症が続くことで起こります。犬においては、中耳炎の一形態として珠腫性中耳炎が見られますが、猫では比較的珍しい疾患です。
症状は耳からの分泌物、頭振り、耳を掻く行動などが主で、重症化すると神経症状(顔面神経麻痺など)を示すこともあります。診断は主に耳鏡検査、X線検査、CTスキャン、MRIなどによって行われ、中耳の組織検査も有用です。治療は炎症の原因となる異物の除去や抗生物質の使用、さらには手術が必要な場合もあります。
Written with ChatGPT
治療方針について
薬物治療として、炎症を抑えるステロイド剤の投与が挙げられました。
ただケインの場合、「もう一つの病変」に対する継続的な治療が必要であり、ステロイド投与はそちらの治療を阻害する可能性があるとのことでした。
症状は寛解に向かっており、リスクを冒してまで行うことではないと判断し、このまま経過を観察することにしました。
まとめ
以上が今回の顛末です。最後に日本動物高度医療センターを訪れてから一ヶ月近くが経ちましたが、ケインのホルネル症候群の症状はなくなっています。中耳炎が完治したとは思いませんが、食欲も含めて、普段の元気を取り戻して良かったです。
飼い猫に対するMRI検査は、当たり前ですが治療ではありません。行ったとしても病状が改善したり、猫が感じる苦痛が和らぐわけではありません。かかる金額を考えると、誰もがおいそれとはできないでしょう。ただ、飼い主の不安を取り除くという意味では有効だと感じました。
また、今回の強制給餌や薬物投与の経験を通じて、飼い猫の「治療」についても考えさせられました。
「飼い猫のため」といいながら、実際は「飼い主自身のため」というのは、よくあることです。猫に長生きしてもらいたい、できるだけ長く一緒にいたい、という気持ちは、純粋に飼い主のエゴから生じた思いに違いありません。
猫に苦痛を与えて、猫が嫌がること続けてまで、そのエゴを主張していいのかという疑問を強く感じました。
私がケインに嫌がる「治療」をした場合、ケインはどこにも逃げる場所はありません。即時的な効果が期待できず、辛さをともなう「治療」の場合、ケインはその「治療」の意味を理解できないでしょう。そして「治療」と「虐待」を見分けることもできないはずです。
自分本位に「ケインのため」を考えるのではなく、できるだけ「ケインの身になって(難しいことですが)」何が必要かを判断していこうと思いました。
👇ケインは幼い頃に大手術をして、その一命を取り留めたことがあります。その顛末です。
👇猫の飼い主あるあるです。
実は、私自身もかつてMRI検査を受けた経験があります。今から11年以上前の話になります。
当時はバリバリの通勤ランナーだったわけですが、あるときに右足の親指に痺れを感じ、右脚を踏み出すときに、つま先が上げづらいという症状が出ました。整形外科を受診してMRI検査を受けたところ、診断結果は「椎間板ヘルニア」でした。それまで腰痛などは無縁だったこともあり、まさに寝耳に水でした。
幸いにもじきに痺れの症状は消え、元通り走ることができるようになりました。
その後は何千キロと走り、何万キロと自転車を漕ぎましたが、今のところ同様の症状は再発していません。
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